「もし従業員ががんになったら、会社として何ができるだろうか?」
人材の採用や定着が経営課題となるなか、従業員が安心して長く働ける職場づくりの重要性が高まっています。
給与や休日だけでなく、病気などの予期せぬ出来事に直面したとき、会社がどのような支援を用意しているか。そのことも、従業員と企業との信頼関係を考えるうえで大切な要素ではないでしょうか。
企業が用意するがん保障は、福利厚生を充実させるための選択肢のひとつです。 団体がん保険や企業向け保険の特約などによる経済的な支援と、休暇制度・勤務制度を組み合わせることで、従業員が治療と仕事を両立しやすい環境づくりにつながります。
今回は、大東建託株式会社の取り組みや公的な調査結果を参考に、中小企業が取り組める福利厚生とがん保障のあり方を考えます。
がんになっても働き続けたい。その希望を会社は支えられるか?
がんは、決して高齢者だけの病気ではありません。現役で働いている世代にとっても、身近な病気です。
国立がん研究センターが2025年7月に公表した「令和5年度患者体験調査」によると、がんと診断された時点で収入のある仕事をしていた人のうち、53.4%ががん治療のために休職・休業し、19.4%が退職・廃業を経験していました。
さらに、退職・廃業した人の58.3%は、がんの治療開始前に仕事を辞めていました。
これは、がんと診断された人を対象に実施した調査の結果であり、企業の福利厚生制度と退職の因果関係を示す数字ではありません。それでも、治療が始まる前から仕事を続けるかどうかという難しい決断に直面する人がいることが分かります。
がんと診断されたとき、本人には病気や治療への不安に加え、仕事や家計についての心配も生じるでしょう。
「治療費はどのくらいかかるのだろう?」
「休職することになったら、生活はどうなるだろう?」
「治療が終わったあと、今の職場に戻れるだろうか?」
こうした不安をすべて取り除くことは難しくても、会社があらかじめ支援制度を整えておくことには、大きな意味があると考えられます。
出典:国立がん研究センター「令和5年度患者体験調査」結果報告(2025年7月3日)
大東建託の事例に学ぶ、従業員を支える福利厚生
従業員のがん治療と仕事の両立を支援する取り組みとして、注目したいのが大東建託株式会社の事例です。
同社は2025年8月、所定のがんと診断された従業員に対して、一律100万円を支給する制度を導入しました。
この制度は、会社が団体がん保障保険に加入し、保険料を全額負担する仕組みです。対象は社会保険未加入者を除く従業員で、所定の条件を満たす場合には、再度100万円が支給される仕組みも設けています。
さらに同社は、経済的な支援だけでなく、働き方の面でも制度を整えています。
2025年4月には、がん治療のために年間7日間取得できる有給の「がん休暇」を新設。通院などに合わせて1時間単位で取得できる制度です。また、一定の対象従業員について、がん治療のための休職期間を最大24カ月に延長しました。
注目したいのは、保険による経済的な保障と、治療を受けながら働くための制度を組み合わせていることです。
治療費への備えがあっても、通院する時間が確保できなければ安心して働くことはできません。反対に、休暇制度が整っていても、経済的な不安が大きければ治療と生活の両立は難しくなるかもしれません。
大東建託の取り組みは、従業員の安心を複数の制度で支えるという点で、中小企業にとっても参考になる事例です。
なお同社は、がん検診や治療と仕事の両立支援などの取り組みが評価され、2026年3月には「令和7年度がん対策推進企業表彰」で厚生労働大臣表彰 最優秀賞を受賞しています。
参考:大東建託「従業員のがん診断時に一律100万円を支給する制度を導入」(2025年7月25日)
参考:大東建託グループ「がん対策推進企業表彰」受賞記事(2026年4月2日)
2026年4月から「治療と就業の両立支援」が事業主の努力義務に
こうした取り組みは、一部の大企業だけのものではありません。
2026年4月1日から、改正労働施策総合推進法により、病気を抱える労働者の治療と就業の両立支援が事業主の努力義務となりました。
厚生労働省の「治療と就業の両立支援指針」では、従業員が安心して相談できる体制づくりや、治療に配慮した休暇・勤務制度の整備などが示されています。
これは、企業にがん保険への加入を義務づけるものではありません。
企業として大切なのは、従業員が病気になった際に、治療と仕事の両立について相談でき、必要な支援を検討できる体制を整えておくことです。
制度づくりは、従業員の健康を守るためだけではなく、人材の確保や定着という経営上の課題にもつながっています。
出典:厚生労働省「治療と就業の両立支援指針」(2026年2月10日告示)
従業員約50人のインシュアランスブレーンでも、がん治療への備えを
私たちインシュアランスブレーンも、約50人の従業員が働く企業です。
当社では、従業員ががん治療を受ける場合の経済的負担に備えるため、上乗せ労災保険に付帯する特約を活用しています。所定の条件に基づき、がん治療にかかる費用の実費を補償する仕組みです。
大東建託のような団体がん保障保険とは異なる形ですが、従業員の治療費負担に備えるという目的では共通しています。
がんと診断されたとき、病気そのものへの不安を会社が取り除くことはできません。
しかし、治療費の心配を少しでも軽くできれば、従業員にとって治療や今後の生活を考えるうえで、ひとつの安心材料になるのではないでしょうか。
保険の補償だけであらゆる不安を解決できるわけではありません。それでも、「万一のときのために会社が備えてくれている」という事実は、従業員と企業の信頼関係を築くうえでも意味を持つと考えています。
※補償の対象となる治療や費用、支払条件等は保険契約の内容によって異なります。
中小企業が法人向けのがん保障を検討するメリット
企業によるがん保障の導入には、主に3つの意義が考えられます。
1. 従業員の経済的な不安を軽減する
日本には高額療養費制度があり、健康保険の対象となる医療費については、所得や年齢などに応じた自己負担の上限が設けられています。
また、要件を満たす健康保険の被保険者には、療養のために働けない期間の所得を補う傷病手当金もあります。
一方で、公的制度だけでは対応できない費用や、長期にわたる治療による家計への影響が生じる場合もあります。
企業が用意する保障は、こうした公的制度や従業員本人の備えを踏まえ、必要な部分を補う役割が期待できます。
2. 治療と仕事を両立できる環境づくりを支える
経済的な保障があることは、従業員が治療を受けながら働くことを考える際の安心材料になります。
ただし、重要なのは保障だけではありません。病状や本人の希望に応じて休暇・勤務時間・業務内容などを調整できる環境も必要です。
がん保障を、治療と仕事の両立支援という幅広い人事労務施策の一部として考えることが大切です。
3. 採用活動や人材定着において企業の姿勢を伝えられる
求職者が企業を選ぶ際には、給与や仕事内容に加え、働きやすさや福利厚生も判断材料になり得ます。
万一の病気に備えた制度は、「従業員に長く安心して働いてほしい」という企業の姿勢を具体的に示すものです。
もちろん、がん保険への加入だけで採用数が増えたり、離職率が下がったりするとは限りません。
大切なのは、制度を用意することだけでなく、従業員に正しく伝え、必要なときに利用できる状態にしておくことです。
福利厚生は「何を導入するか」より「何のために導入するか」

従業員のがん治療に備える方法は、団体がん保険だけではありません。
企業向け保険の特約を活用する方法や、会社独自の見舞金制度を設ける方法なども考えられます。
それぞれ保障の対象者、給付条件、受取人、会社の負担などが異なるため、自社の状況に合った仕組みを検討する必要があります。
大企業の制度をそのまま取り入れることが難しい中小企業でも、現在加入している保険や福利厚生制度を確認することから始められます。
大切なのは、従業員が病気になっても働き続けることを強いるのではなく、本人が治療に専念することも、仕事を続けることも、できる限り安心して選択できる環境を整えることではないでしょうか。
よくある質問
Q. 法人がん保険は福利厚生として活用できますか?
はい。企業が契約する団体がん保険や、企業向け保険の特約などを活用して、従業員に対するがん治療時の経済的支援を福利厚生制度に組み込むことが考えられます。ただし、対象者や給付の仕組み、社内規程との整合性などを確認する必要があります。
Q. 会社はがん保険に加入する義務がありますか?
いいえ。2026年4月から治療と就業の両立支援は事業主の努力義務となりましたが、がん保険への加入そのものが義務づけられたわけではありません。保険は経済的な支援を整えるための選択肢のひとつです。
Q. すでに従業員が個人でがん保険に加入している場合、会社の保障は不要ですか?
必ずしもそうではありません。個人の保険は加入状況や保障内容が従業員ごとに異なります。会社としてどのような支援を用意するかは、公的保障や既存の福利厚生制度、従業員のニーズを踏まえて検討することが大切です。
まとめ:安心して働ける会社づくりを、経営の視点から
従業員が安心して長く働ける会社をつくることは、人材採用や定着を考えるうえでも重要な取り組みです。
そのためには、日常の働きやすさだけでなく、病気などの予期せぬ出来事に直面した際の支援も欠かせません。
がん治療への備えは、福利厚生を充実させるひとつの方法です。経済的な保障と、治療と仕事を両立できる職場環境の両方を考えていくことが求められます。
インシュアランスブレーンでは、法人向け保険の検討に加え、既存の保障や福利厚生制度を踏まえたご相談も承っています。
「自社の保険でどこまで備えられているのだろう?」
「従業員の安心につながる制度を整えたい」
そんな疑問をお持ちの経営者の皆さまは、ぜひお気軽にご相談ください。
従業員の安心と企業の持続的な成長を、福利厚生という視点から一緒に考えてみませんか?
参考資料